無音の声

僕が彼女の裸体を愛でるのは、彼女を愛しているからではない。正確にいうのなら彼女の、その身体の骨格に恋をしているからだ。
特に彼女の肩甲骨や背骨は美しく、触れると、ころころ音が立つような感触があった。そっと撫でれば、硬い骨が僕の手の中でそっと主張する。うつ伏せになると浮き出てくる骨たちは、それぞれが命を持っているかのように僕を無音の声で誘った。

 

情事のあと、彼女は私を見つめてこう言った。
「私のこと愛している?」
僕は一瞬考えたが、すぐに頷いた。そこに間違いがあっても、彼女が去ってしまわないように、彼女の骨に触れられなくならないように、僕は言葉や態度を選ぶ。
「そう、良かった。」
彼女は優しく笑うと、そっと目を閉じた。彼女の背中を優しく撫でる。彼女は幸せそうに口角を上げた。僕は少しの罪悪感と、この手の感触の喜びに悶える。この愛おしい手触りを逃したくはなかった。けれど彼女は僕からの愛を求めている。僕にとって愛とは不確かなもので、身に覚えのないものでもあった。けれど骨は違う。確かにそこにあり、滑らかで、こつこつとして美しい。仮に僕が愛を知っていたなら、僕はやはり彼女ではなく彼女の骨を愛していることになるだろう。

 

翌朝、彼女は仕事へ向かった。僕は彼女を送り出し再びベッドの上で横になる。そして考えた。もうすでに答えは出ていたような気もした。僕はこの先も彼女の前で嘘つきに徹底するだろう。そうして愛おしいあの背骨や美しい肩甲骨にキスを落とすだろう。


例えそれが、罪深い想いであったとしても。