山手線

春を控えた冬の終わりだった。新宿駅で同い年ほどの男に声をかけられ、食事をし、一晩を過ごして終わるはずだったそんな日のことだ。


「君はセックスをしたら恋人だと思う?」
などと聞いてきた男に私はそんなの馬鹿な女の考えよと答えた。これは本心だった。セックス一つで恋人になれるはずがない。セックスはただのセックスでしかない。
「安心した。なんて言ったら最低だと思われるかな。」
男は笑ってそう言った。私と男は似ていると思った。退屈な日々に刺激を求めている。安定や安心は必要なく、ただ刺激があれば良い。私は男に少し興味を持った。
「貴方、とても綺麗な身体ね。」
「そうかな、初めて言われたよ。」
「煙草を吸ってもいいかしら。」
「構わないよ。僕も吸うから。」
私たちは裸のまま二人で煙草に火をつけ、ゆっくりと煙を吐いた。
「セックスの後の煙草はどうしてこんなに美味しいのかしら。」
「僕も同じことを言おうとした。」
互いに笑い合い、私たちは短いキスをした。

 

明け方、私たちは駅のホームで別れた。連絡先を聞いてみようかとも思ったが、やめた。直感だった。彼はもう二度と私を抱かないだろう。私も二度と彼には抱かれないだろう。私は妙に清々しい気持ちがした。こんな感覚は初めてだ。私は(きっと彼も)そのまま振り返ることなく、帰りの電車に飛び乗った。