深夜新書

深夜。コンビニへ向かう足取りはふわふわと軽い。何を買う予定もなく、ただ夜風をきって行く。夏が来た。大嫌い。夏なんか大嫌い。そう思いながら、夏の香りを深く吸う。

 


コンビニの明かりはやけに眩しくて、私は目を細めた。店員はみんな気だるそうだ。私はお気に入りのパンとアイスココアを手に取って、レジで煙草を一箱頼んで、コンビニを出た。買ったばかりの煙草に火をつけてゆっくり歩き出す。「歩き煙草なんてみっともない。」母親の言葉を思い出す。

 


帰り道の途中、真っ黒な野良猫が私の前に現れた。私は慌てて携帯を取り出し写真を撮ろうとしたが、逃げられてしまった。あーあ。声に出して、再び歩き出す。

 


アパートに着くと、部屋の中はクーラーが良く効いていて寒いくらいになっていた。そばにあった薄手のカーディガンを羽織る。買ってきたパンにかじりつきながら撮り逃した黒猫のことを思った。黒猫が前を通ると縁起が悪いなんて言うけど、私は真っ黒な猫が一番好きだ。どことなく凛としていて、逞しくも見えるあの子達が。

 


寂しい夜は外へ出て風を浴びよう。悲しい夜は声を出して泣こう。苦しい夜は狂ったように踊ればいい。君の明日が、私の明日が、明るくなる日が来なくとも。