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僕の今といえば、何もなかった。金も、恋人も、友人も家族も、守るものも、生きる意味も死ぬ意味も、何もなかった。何もないというのは怖いことだ。独りは恐い。独りは恐い。知っているのに僕は、独りであることをまるで選び取ってきたように生きてきた。誰かには逃げていると叱咤され、誰かには許された。今の僕はどうだろうかと、静かすぎる夜の中、独りきりの部屋で考える。きっと叱咤した誰かは呆れるだろう、許した誰かは僕を忘れてしまうだろう。構わない。僕は、独りに慣れすぎたのか。きっと僕が添い遂げるのはこの孤独だろうと思った。僕は孤独と一緒に最期の日を迎える。いいじゃないか。僕に合った最期だ。
夜も明けようとする中、確認するようにもう一度考えてみた。僕には何かあるか、いや無かった、やはり僕には何もない。きっとこの先だって何もない。こんな人生を続けることの意味さえ、その意味さえ見つからないのだから。

誰かに必要とされることで人は人間になると、何処かの誰かが歌っていたのを思い出す。ならば僕は人間ですらなかった。そこで孤独が呼びかけてくる。僕のこの手を取ろうとする。僕は簡単に手を繋いでしまう。もう外は薄明るくなっていた。身体が軽くなったような気がして僕は布団の中からベランダに出た。辺りをゆっくり見回してみる。下にはぽつぽつと人間が歩いていた。上にはカラスが一羽飛んでいた。孤独はまるで僕の背中を押すように、今だよと囁いた。
今か、と僕は答え、孤独と手を繋いだまま、空に、飛んだ。