2018-01-01から1年間の記事一覧

戯言

何もしたくない何もしたくないな楽しそうなものも見当たらないし腹も空かないし息をするだけで精一杯だ 今すぐ攫われたい今すぐ攫われたいなこの街には飽きたし人と話すのはうんざりだし愛想笑いするだけで精一杯だ どうしてあの時無理矢理にこの手を引いて…

生きていくもの

信じることに怯えてきた彼女は いつだって無責任で すぐに諦めては線を引く しかしそんな彼女が ある日守るべきものを見つけてしまった それは彼女の命と言ってもいい 大切な 大切な宝物 守れる者は彼女しかいなかった 彼女は戸惑い慌てふためく どうすれば…

誰か歌って

赤い赤い太陽見たの。あの子に誘われビルの屋上。ねえねえ聞いて。私見た。真っ赤な太陽この眼で見たの。沈まないで欲しかったのに、それでも沈んでいったから、太陽はきっとホントは冷たいって言った。そうしたらあの子が言ったの大丈夫だよって。だから私…

夏はなぜあつい

何もかもが熱を帯びているようで私はうんざりする。ジャージ姿の学生も、ショートパンツの女の子も、父の部屋にあるスポーツ紙の見出しも、うだって伏せたままでいる向かいの犬も、みんなみんな。 夏は嫌いだった。夏の持つ無神経さが特に嫌いだった。私まで…

少女はいつまで夢を見る

夏の暑さに顔をしかめながら睨んだ太陽は眩しすぎて熱い。少しも似合っていないと思う制服の、スカートの裾を揺らしながら向かう先は夜の繁華街で、人の波に紛れて自分を忘れそうになった。雑音をシャットアウトする大音量の音楽だけが心震わす。独りは寂し…

重なるセンチメンタル

煙草が二本、三本と減っていく夕方。煙が時々目にしみた。このまま泣いてしまえたらいいのにと思う。泣いて泣いて目を腫らして、軽くなった身体で外を歩きたい。もうどれくらい泣いていないだろう。大人になると泣き方を忘れてしまうのかもしれない。だから…

ワンシーン

梅雨が明けようとするころ、庭の紫陽花が朽ちた。茶色く濁った花弁が何故だか可哀想で、私はしゃがみ込みそっとその濁りを撫でる。紫陽花は何も言わず風に揺れた。私も何も言わず立ち上がる。部屋に戻ろう。そう思って一歩踏み出した時、ポツポツと雨が降り…

深夜新書

深夜。コンビニへ向かう足取りはふわふわと軽い。何を買う予定もなく、ただ夜風をきって行く。夏が来た。大嫌い。夏なんか大嫌い。そう思いながら、夏の香りを深く吸う。 コンビニの明かりはやけに眩しくて、私は目を細めた。店員はみんな気だるそうだ。私は…

そこのあの子の夏休み

窓の外はジリジリという音が聞こえてくるような快晴だった。でも私は部屋の中で膝を抱えている。外には出たくなかった。学校なんて行きたくなかった。あそこは煩い。あそこは怖い。あそこは危険だ。 いつからこんな風に思うようになったのか、もう思い出せな…

欠けた愛を探してる

友人と喫茶店でコーヒーを飲みながら、友人の話す愛についてを聞いていた。友人は愛しているならこうするはずだ、愛しているならあんなことはしない、と少しご立腹な様子で熱弁している。私はそれをただウンウンと聞いていた。頭の中ではくだらないと思って…

答えのないクイズ

途端に先のことが見えなくなった。どうやって生きていけばいいのか、何のために生きているのか分からなくなった。きっかけと呼べるようなものは思いつかない。漠然とした不安と焦りが募っては消えまた生まれる、その繰り返しの中で身動きができなくなった。…

古い記憶は美化されて、春が来る

みっともないセックスだったかも知れない。 お互い胸の中で凍っていた何かを、溶かし合おうとするようなセックス。本能に任せて貪りあった。若くて痛々しくて目も当てられない。そんなセックスを、私たちはした。本当の別れ際のことだった。全くの赤の他人に…

あの頃の嘘を無かったことにしたくて

愛してる、大好き、ずっとそばにいるよ。全部全部嘘だった。私の口をついて出た言葉は皆んな嘘だった。そんな嘘を全て信じていた君はもういないし、吐いた嘘は嘘にならないし、私の中には後悔だけが残ってる。もう嘘はつかないと心に決めて新しい人と始めた…

彼は全てにおいて、良くも悪くも若々しかった。間も無く四十になろうとしている私や夫とは大違いだった。その小麦色の肌はピンと張りが良く、私を抱きしめる時の力は強く逞しく、何処へ行くにもエネルギーがあり、何より時々姿を見せる葛藤や痛みが私には輝…

日記

嘘つきの君にはわからないよ。僕の愛情の形なんて。君の愛してるはただのおうむ返しだろう。僕がいくら本気で愛したところで、君が返してくれるのは見よう見まねの愛情だ。誰かの受け売りか、小説や映画の真似か、それは分からないけれど、君はさも本物のよ…

逃げ癖

本当に強い人というのは、頼るべき時に誰かを頼れる人間だと、どこかで教わったことがある。私はその時、ならば私は非常に弱い人間なのだろうと思った。強い人間になりたかったが、しかし私には誰かを頼るということがどうにも難しく感じた。だって頼られる…

追い風

あの人は僕の目の前で屋上から飛び降りた。穏やかな歓談の後のことだった。 僕らは精神病院に入院していた。二人とも、自殺未遂が原因だった。あの人は飛び降りに失敗して、僕は首吊りに失敗して、それぞれ病院に送られた。同じ病室になった僕らは、次第に親…

さよなら

「縁があったらまた会いましょう?」そう言って彼女は山手線の改札を抜けていった。僕は手を振って見送ったが、彼女は振り返ることなく人の渦の中に消えていった。 僕らは一年という短くも長い年月を一緒に過ごした。そこには色々な思い出が詰まっている。桜…

宛名のない遺書

14歳になった夏の日の夜。風がごうごうと窓の外で音を立てるのを聞きながら、私は誰に宛てるつもりもない遺言を書いていた。死ぬつもりだったわけじゃない。けれどいつまで生きているかも分からない。そんな風に思ってペンをとった。 私は便箋を前にして、思…

これを孤独と言うのなら

幼い頃から、私が泣こうが迷おうが悩もうが、助けてくれる人はいなかった。私は私自身でこの心を守ってやるしかないのだと理解した。母親も父親も私には「そこにいるだけ」の存在で、友人はマネキンと同等だった。恋人ができても、所詮おままごとの延長にい…

土に還れば

私たちは毎日、その日の中で一番印象的だった話をしながら夕食を食べる。「今日はどうだった?」「昼に食べたオムライスがひどく不味かったな。」彼は顔をしかめ首を横に振りながらそう言った。「結花はどうだった?」私はこの話が出来るのをずっと待ってい…

身勝手な愛

もう二度と会えない君のことを想う。手を切ったのは私の方だというのに、夜が来ると決まって私は君を想う。なんて身勝手なことだろう。分かっていてもやめられないのは、何故だろう。どこで何をしているのだろうか、毎日のご飯は美味しいだろうか、隣にいて…

僕らの終わり

「もう終わりだね。」何処からともなく聞こえてきた声に僕は振り返る。そこには誰もいなかった。確かに聞こえた声は、彼女の甘い声とよく似ていた。僕らは今頃の、寒い寒い冬に出逢った。そうして秋が見える頃に別れた。僕には突然のことだった。僕らの関係…

息づく秘密

誰にも言えない秘密を抱えた私たちは、その魅力の虜になっていった。最早お互いのことではなく、この関係が秘密であることに溺れていった。 まるで真っ暗な冬の海の中に一歩ずつ進み行くような感覚。静かに波打つ海の中は砂浜よりも温かい。私たちは互いにそ…

月と太陽

夜が好きだと言う人は多い。その静寂さだとか、澄んだ空気だとか、夜特有の孤独に身を落とすのがいいだとか、理由は様々だ。けれど私はそのことを知っても、太陽の当たる昼間が一番好きだった。昼間は良い。特に晴れた日が一番いい。家の中に射し込む光も、…

同じだけの愛

恋人は、私にはもったいないくらいよくできた人間だった。何より、私のことを愛してくれているのがよく分かる。しかし私は、同じだけの愛をもって彼に接することが出来なかった。それはどうすれば彼と同じだけの熱量で彼を大切に扱えるのか、愛とはなんなの…

彼女の明日

「明日になったら話すね。」そう言って笑っていたのに。僕は彼女の遺体の前にいた。目の前にいるのが死んだ身体だと思えなくて、僕は涙も流れないまま立ち尽くしていた。 彼女の死因は入水自殺だった。遺書も何も残さず、彼女は死んだ。理由は誰にも分からな…

先生

先生は、昼間にしかやってこない。授業がない時にふらりとやってきて、毎回初めての部屋に来たような顔をしてコーヒーを飲む。私は先生が来る前に掃除を済ませ洗濯物を片付ける。いつもより一人分多い昼食を作っておく。普段から食の細い先生のためにサラダ…

無題

難しいことは何も考えたくなかった。例えば生きる意味や理由、存在価値。それでも私は考えてしまう。私には何もなかった。特技も趣味も、浮いた話も刺激的な一日も。何も無い。ただ毎日をやりこなすだけの日々。 私はひどく退屈していた。けれどやりたいこと…

無題

人生なんかチョロいと証明したくて、どうでもいい男と結婚した。家族はもちろん友人や職場の人間まで、沢山の人が祝ってくれた。友人達は皆羨ましがった。私は心の中で笑い、優越感に浸っていた。 しかし、そんな優越感に浸っていられるのもそう長くはなかっ…