2018-01-01から1ヶ月間の記事一覧

無題

人生なんかチョロいと証明したくて、どうでもいい男と結婚した。家族はもちろん友人や職場の人間まで、沢山の人が祝ってくれた。友人達は皆羨ましがった。私は心の中で笑い、優越感に浸っていた。 しかし、そんな優越感に浸っていられるのもそう長くはなかっ…

一片

‪18の春、文筆家の男と出会った。‬‪男は27で、私とは大きな年の差があったが、私たちは何度か顔を合わせるうちに他愛ない会話を楽しみ、やがて親しくなった。彼の家へ遊びに出かけては、黙々と何かを書き続けている彼の後ろで本を読んだり、たまに珈琲を淹れ…

人形劇 終焉

帰宅した私は、けれど玄関の前で立ち尽くしていた。目の前のドアを開ける勇気がなかったのだ。ドクドクと音を立てる心臓に耐えきれず、私は一度最寄り駅まで引き返した。途中コンビニエンスストアに寄り温かい飲み物を買った。ただそれだけのことなのに、何…

人形劇

私は一晩中、泣きながら考えていた。この先どうすればいいのか、私は何をして生きていけばいいのか。新しいお人形さんは母と夕食をとり、母は今まで私にしてきたような甘い口調で新しいお人形さんに話しかけ続けていた。母は部屋に駆け込んだ私を追うことも…

人形劇

母の言葉を疑い始めてから三年、私は未だ母のお人形さんでいた。母の愛情というものに疑問を抱いたからこそ、お人形さんでいなくなるのが怖かったのだ。私はもう高校二年になり、同級生たちが各々好きなものに手を出したりするのを見ながら、私は私の好きな…

人形劇

母が私を初めてお人形さんと言ったのは、私がまだ5歳くらいのころだった。母はとても優しい笑顔でこう言ったのを覚えている。「貴女は私の一番大好きな可愛いお人形さんなの。」私はその時単純に、母は私のことが大好きなのだと思っていた。私が生まれてすぐ…

さようならの時

夜中のコンビニには退廃的な空気がある、と、彼女は言った。「タイハイテキ?」僕が聞き返すと、彼女は笑って、「分からなくていいことよ。」と言った。彼女はとても頭がいい。しかし、そのせいで病気になってしまったと、彼女は言っていた。 僕と彼女が出会…

例え明日が今日と変わらなくとも

独りきりの教室は、地獄よりも地獄だった。わいわいと騒ぐ同級生たちがいる教室の中で、私だけが取り残されている感覚。誰もが敵に見えてくる。誰かと喧嘩をしたわけでも、いじめられているわけでもない。ただ誰も、私におはようやまたねと声をかけてくれる…

山手線

春を控えた冬の終わりだった。新宿駅で同い年ほどの男に声をかけられ、食事をし、一晩を過ごして終わるはずだったそんな日のことだ。 「君はセックスをしたら恋人だと思う?」などと聞いてきた男に私はそんなの馬鹿な女の考えよと答えた。これは本心だった。…

無音の声

僕が彼女の裸体を愛でるのは、彼女を愛しているからではない。正確にいうのなら彼女の、その身体の骨格に恋をしているからだ。特に彼女の肩甲骨や背骨は美しく、触れると、ころころ音が立つような感触があった。そっと撫でれば、硬い骨が僕の手の中でそっと…

またね。

平穏な日々をぶち壊すような何かが欲しかった。とでも言えばいいだろうか。ほんの小さな遊び。愚かで艶めかしい戯れ。月に一度きりのささやかな幻。官能小説などでは到底敵わないようなリアル。様々な男との一晩は、とても刺激的で愉しかった。世の中には色…

東京ロマンス

夏祭りで掬った金魚が死んだ。ああ冬が来たのだと思った。悲しみも申し訳なさもなく、ただぼんやりそう思って、私は金魚鉢の中で浮いたままの真っ赤な金魚を見つめていた。翌朝、私は近くの空き地へ金魚を埋めた。この金魚はいつか土に還り花を咲かすかも知…

ある日の女

寂れたラブホテルで、私は恋人をどれだけ愛しているのかについて手帳にしたためていた。ベッドの中ですやすやと心地好さそうな寝息を立てて眠る彼の横顔を見ながら、こんなにも愛おしい人はいないと思う。永遠にこの夜が続けばいいと願う。朝は嫌いだ。朝は…

ある一日

窓の外はすっかり冬模様だった。寒々しい木々、静かな風、私には不釣り合いにも思えるベッドの中の温もり。私は煙草をふかしながら、ふと昔の恋人が私に言った台詞を思い出していた。「君は僕に何を期待している?」私はその時、何も、と答えた。翌日に恋人…