2018-02-01から1ヶ月間の記事一覧

答えのないクイズ

途端に先のことが見えなくなった。どうやって生きていけばいいのか、何のために生きているのか分からなくなった。きっかけと呼べるようなものは思いつかない。漠然とした不安と焦りが募っては消えまた生まれる、その繰り返しの中で身動きができなくなった。…

古い記憶は美化されて、春が来る

みっともないセックスだったかも知れない。 お互い胸の中で凍っていた何かを、溶かし合おうとするようなセックス。本能に任せて貪りあった。若くて痛々しくて目も当てられない。そんなセックスを、私たちはした。本当の別れ際のことだった。全くの赤の他人に…

あの頃の嘘を無かったことにしたくて

愛してる、大好き、ずっとそばにいるよ。全部全部嘘だった。私の口をついて出た言葉は皆んな嘘だった。そんな嘘を全て信じていた君はもういないし、吐いた嘘は嘘にならないし、私の中には後悔だけが残ってる。もう嘘はつかないと心に決めて新しい人と始めた…

彼は全てにおいて、良くも悪くも若々しかった。間も無く四十になろうとしている私や夫とは大違いだった。その小麦色の肌はピンと張りが良く、私を抱きしめる時の力は強く逞しく、何処へ行くにもエネルギーがあり、何より時々姿を見せる葛藤や痛みが私には輝…

日記

嘘つきの君にはわからないよ。僕の愛情の形なんて。君の愛してるはただのおうむ返しだろう。僕がいくら本気で愛したところで、君が返してくれるのは見よう見まねの愛情だ。誰かの受け売りか、小説や映画の真似か、それは分からないけれど、君はさも本物のよ…

逃げ癖

本当に強い人というのは、頼るべき時に誰かを頼れる人間だと、どこかで教わったことがある。私はその時、ならば私は非常に弱い人間なのだろうと思った。強い人間になりたかったが、しかし私には誰かを頼るということがどうにも難しく感じた。だって頼られる…

追い風

あの人は僕の目の前で屋上から飛び降りた。穏やかな歓談の後のことだった。 僕らは精神病院に入院していた。二人とも、自殺未遂が原因だった。あの人は飛び降りに失敗して、僕は首吊りに失敗して、それぞれ病院に送られた。同じ病室になった僕らは、次第に親…

さよなら

「縁があったらまた会いましょう?」そう言って彼女は山手線の改札を抜けていった。僕は手を振って見送ったが、彼女は振り返ることなく人の渦の中に消えていった。 僕らは一年という短くも長い年月を一緒に過ごした。そこには色々な思い出が詰まっている。桜…

宛名のない遺書

14歳になった夏の日の夜。風がごうごうと窓の外で音を立てるのを聞きながら、私は誰に宛てるつもりもない遺言を書いていた。死ぬつもりだったわけじゃない。けれどいつまで生きているかも分からない。そんな風に思ってペンをとった。 私は便箋を前にして、思…

これを孤独と言うのなら

幼い頃から、私が泣こうが迷おうが悩もうが、助けてくれる人はいなかった。私は私自身でこの心を守ってやるしかないのだと理解した。母親も父親も私には「そこにいるだけ」の存在で、友人はマネキンと同等だった。恋人ができても、所詮おままごとの延長にい…

土に還れば

私たちは毎日、その日の中で一番印象的だった話をしながら夕食を食べる。「今日はどうだった?」「昼に食べたオムライスがひどく不味かったな。」彼は顔をしかめ首を横に振りながらそう言った。「結花はどうだった?」私はこの話が出来るのをずっと待ってい…

身勝手な愛

もう二度と会えない君のことを想う。手を切ったのは私の方だというのに、夜が来ると決まって私は君を想う。なんて身勝手なことだろう。分かっていてもやめられないのは、何故だろう。どこで何をしているのだろうか、毎日のご飯は美味しいだろうか、隣にいて…

僕らの終わり

「もう終わりだね。」何処からともなく聞こえてきた声に僕は振り返る。そこには誰もいなかった。確かに聞こえた声は、彼女の甘い声とよく似ていた。僕らは今頃の、寒い寒い冬に出逢った。そうして秋が見える頃に別れた。僕には突然のことだった。僕らの関係…

息づく秘密

誰にも言えない秘密を抱えた私たちは、その魅力の虜になっていった。最早お互いのことではなく、この関係が秘密であることに溺れていった。 まるで真っ暗な冬の海の中に一歩ずつ進み行くような感覚。静かに波打つ海の中は砂浜よりも温かい。私たちは互いにそ…

月と太陽

夜が好きだと言う人は多い。その静寂さだとか、澄んだ空気だとか、夜特有の孤独に身を落とすのがいいだとか、理由は様々だ。けれど私はそのことを知っても、太陽の当たる昼間が一番好きだった。昼間は良い。特に晴れた日が一番いい。家の中に射し込む光も、…

同じだけの愛

恋人は、私にはもったいないくらいよくできた人間だった。何より、私のことを愛してくれているのがよく分かる。しかし私は、同じだけの愛をもって彼に接することが出来なかった。それはどうすれば彼と同じだけの熱量で彼を大切に扱えるのか、愛とはなんなの…

彼女の明日

「明日になったら話すね。」そう言って笑っていたのに。僕は彼女の遺体の前にいた。目の前にいるのが死んだ身体だと思えなくて、僕は涙も流れないまま立ち尽くしていた。 彼女の死因は入水自殺だった。遺書も何も残さず、彼女は死んだ。理由は誰にも分からな…

先生

先生は、昼間にしかやってこない。授業がない時にふらりとやってきて、毎回初めての部屋に来たような顔をしてコーヒーを飲む。私は先生が来る前に掃除を済ませ洗濯物を片付ける。いつもより一人分多い昼食を作っておく。普段から食の細い先生のためにサラダ…

無題

難しいことは何も考えたくなかった。例えば生きる意味や理由、存在価値。それでも私は考えてしまう。私には何もなかった。特技も趣味も、浮いた話も刺激的な一日も。何も無い。ただ毎日をやりこなすだけの日々。 私はひどく退屈していた。けれどやりたいこと…