東京ロマンス

夏祭りで掬った金魚が死んだ。
ああ冬が来たのだと思った。
悲しみも申し訳なさもなく、ただぼんやりそう思って、私は金魚鉢の中で浮いたままの真っ赤な金魚を見つめていた。
翌朝、私は近くの空き地へ金魚を埋めた。この金魚はいつか土に還り花を咲かすかも知れない。そう思うとただ日々を浪費している私よりもずっとこの金魚の方が「生きている」ように感じた。

 

子供の頃から貧乏だった実家を17で飛び出し、とにかく金が欲しかった私は年をごまかして夜の仕事に就いた。それから10年、高いマンションに住み、好きな服を買い、毎日の食事にも困らず、17の時の私が夢に見たものは全て叶えているというのに、私の心はひどく寂しかった。私はどうしてこの生き方を選んだのだろう。それとも、選ばされたのか。違う、選んでしまったのだ。

 

後悔などしていない、そう言い聞かせる夜も少なくはなかった。それでも、なんとも言えぬ虚しさが私の身体中を駆け巡る日はあった。そんな日は何をしても駄目で、ベッドの中で虚しさが薄れ行くのをじっと我慢するしかない。絶対に泣くものかと、固く目を閉じて深呼吸を繰り返す。

 

抜け出したい。一言でも口にすれば私の全てが崩れ落ちて散り散りになるだろう。だから私は今日も、男に媚びを売り金を稼ぐ。いつまで続くのか、果ての見えぬ未来と闘うのだ。