ワンシーン

梅雨が明けようとするころ、庭の紫陽花が朽ちた。茶色く濁った花弁が何故だか可哀想で、私はしゃがみ込みそっとその濁りを撫でる。紫陽花は何も言わず風に揺れた。私も何も言わず立ち上がる。部屋に戻ろう。そう思って一歩踏み出した時、ポツポツと雨が降り出した。淀んだ雲から落ちてきた透明な水が、頬を伝う。


いつだったか、雨は汚いんだと言った人がいた。だから飲んだりしてはいけないよと言っていた。こんなに透き通っているのに、と私は思う。私は空に向かって顔を上げて、口を開いた。何滴かの雨雫が舌を伝う。私はそれを飲み込んだ。

雨は、ほんの少しだけ甘かった。