欠けた愛を探してる

友人と喫茶店でコーヒーを飲みながら、友人の話す愛についてを聞いていた。友人は愛しているならこうするはずだ、愛しているならあんなことはしない、と少しご立腹な様子で熱弁している。私はそれをただウンウンと聞いていた。頭の中ではくだらないと思っていた。だって愛しているならこう、なんて、そんなの、ただの押しつけがましい欲望だ。つまらない理想論だ。

 


散々話した友人はどこかスッキリした様子で、手を振り帰っていった。私は1人になった帰り道で考える。愛ってなんだろう。そんなもの、存在するのだろうか。そして一度だけ、愛していると信じた男のことを思い出した。

 


最寄り駅を降りたところで降り出した雨に、私は嫌な顔をしながら傘を差す。雨は嫌いだ。特に今日は気分が悪い。思い出してしまった男が私のそばから離れていった日も雨が降っていたから。

 


アパートにつき、私はため息をひとつ吐いた。履きなれないヒールを玄関に放り、少し洒落た服を脱ぎ捨ててベッドの上に寝転がる。愛についてなんて答えのないものを考えたくはないのに、私の頭の中はそのことでいっぱいになってしまっていた。枕に顔を埋めて考える。愛って何、愛ってどんなもの、愛してるってどんな気持ち。

昔の男の顔がよぎる。とうに忘れたはずだった人。私は仕方なく振り返ってみる。私はあの男を愛していると信じて、全てを捧げた。時間も心も身体もすべて、あの男のためにあると思っていた。でも違った。それは思い込みに過ぎなかった。結局、私は男を愛してなどいなかった。

結局私もくだらない欲望を持っていたんだ。だって許せなかったから。夜遅く帰宅した私の目の前で、知らない女が私の愛する人に抱かれていたことを。

 


あのとき、驚いた2人はしどろもどろに何かを説明していたけど、私の耳は既に閉じていた。憎しみみたいな感情があるならきっとあの時の私はまさにそんな感情に溺れたんだろう。

2人を部屋から追い出して、私は煙草に火をつけた。それっきり、男は帰ってこなかった。そう、それっきりだ。

 


愛なんて、愛しているなんて、そんなもの簡単に裏返る。私はあの男のおかげで望んでもいないことを学んだ。無償の愛とか、永遠とか絶対とか、そんなものは存在しない。いつかみんな溶けて消えていく。消えていくんだ。

 


顔を埋めた枕が少し濡れて、私は顔を上げた。