重なるセンチメンタル

煙草が二本、三本と減っていく夕方。煙が時々目にしみた。このまま泣いてしまえたらいいのにと思う。泣いて泣いて目を腫らして、軽くなった身体で外を歩きたい。もうどれくらい泣いていないだろう。大人になると泣き方を忘れてしまうのかもしれない。だから大人になってしまった私は、きっと忘れてしまったのだ。泣くということを。


真っ赤な夕日がカーテンの隙間から射し込んで、少しセンチメンタルになる。一人は気楽だけれど、独りは寂しくて、私はベッドに横になる。見上げた天井の模様を指でなぞる。物言わぬものたちに囲まれて、人間は私一人で、この部屋は寂しさでいっぱいだった。


夕日の寿命は短くて、すぐに夜がやってくる。月がくっきりと見えるようになった深夜、私はそっとカーテンの向こう側を覗いて見た。街灯のあかりがアスファルトを照らしているだけで、人っ子一人いないアパートの前。今なら許されるかもしれないと、私は深く息を吸いこんで、何でもいい何かを叫ぼうとしてみた。けれど私の口からは、長い溜息しか出てこなかった。

 

数えだしたらキリがない、失ったものたちのことを、私はその晩、一人で想った。