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東京では珍しく、その日は雪が降っていた。降りてくる雪は真っ白で美しいのに、下を向くと美しかったはずの雪が黒く汚れていて、それはまるで東京の街街を表しているようだった。
木枯らしが吹き、私は身を縮める。横を通り過ぎていく人々も皆同じように身を縮めて足早に歩いていた。東京の冬は忙しない。私は少し歩調を弱めてみた。「余裕を持つ」というのは難しいようでとても簡単だ。ほんの少し肩の力を抜くだけで、心は少し豊かになる。周りの景色もよく見えるようになる。例えば、いつも通っている道に大きな牡丹の花が咲いていることに気づいたり、小さな子どもを連れた母親の顔が優しいことに気づくのだ。
冬の寒さに心まで縮めてしまったらいけない、と私は思った。足を止めて深呼吸をして、私は再び歩き出す。ゆっくりと、噛みしめるような一歩一歩で。