例え明日が今日と変わらなくとも

独りきりの教室は、地獄よりも地獄だった。わいわいと騒ぐ同級生たちがいる教室の中で、私だけが取り残されている感覚。誰もが敵に見えてくる。誰かと喧嘩をしたわけでも、いじめられているわけでもない。ただ誰も、私におはようやまたねと声をかけてくれる者がいない。他人から見ればそれは、さして苦しいことではないのかもしれない。けれど私にとっては違う。たった一人で果ての見えない砂漠の中を歩いているような、大きな心許ない気持ちになるのだ。
私は考える、何がいけないのか、どうしてこうなってしまったのか、考えても考えても、答えは分からなかった。

 

帰りを待つ母は帰宅するたびに私へ今日はどうだった?と声をかけてくる。私はいつも嘘つきに徹する。
「楽しかったよ。」
自室へ戻り、一つ大きなため息をついて、私はベッドの上に突っ伏した。楽しかったなんて、とんだ大嘘だ。本当は毎日制服の袖に腕を通しながら行きたくない気持ちと闘っている。教室にいる間はずっと顔を伏せて時間が過ぎるのを待っている。

こんな生活がいつまで続くのか、考えるだけで憂鬱になった。私はそこで、本棚から一冊の文庫本を取り出す。私にとって唯一現実逃避が出来るものだ。小説は私を、私の知らない遠くの街に連れて行ってくれる。それは学校が世界の全てだと信じ込んでいた私を、少なからず救ってくれた。あまり読書をしなかった私がこうして毎日読書をするようになったのは、世界が広いことを、逃げ場所があることを、教えてくれるからだった。

 

私は思う。例えこんな生活をしていても、いつかきっと日の当たる場所で笑うことができる。今はまだ現実に勝てなくとも、いつか、いつかきっと変われる。どうしても苦しくて堪らなくなったら、逃げ出せばいい。逃げ出すのは決して悪いことじゃない。笑顔で誰かにおはようと言える場所を探しに行くだけだ。生きるために。

私は明日も制服の袖に腕を通しながら憂鬱な気持ちと闘うだろう。帰宅すればまた、楽しかったよと母に嘘をつくだろう。それでも私は、ささやかな希望と期待だけで生きていく。

 

例え明日が、今日と変わらなくとも。