人形劇

私は一晩中、泣きながら考えていた。この先どうすればいいのか、私は何をして生きていけばいいのか。新しいお人形さんは母と夕食をとり、母は今まで私にしてきたような甘い口調で新しいお人形さんに話しかけ続けていた。母は部屋に駆け込んだ私を追うことも、様子を見に来ることもなかった。私は本当に捨てられてしまったのだ。痛いくらいにそのことが分かる。半ば途方に暮れた私は、初めて夜が明けるまで眠れずにいた。

 

朝。私は部屋から出ることが出来ないでいた。母と顔を合わせるのも、新しいお人形さんと顔を合わせるのも、怖くて仕方がなかったのだ。
母は朝食の準備が終わったのか、自分の寝室をノックし、新しいお人形さんに向かって声をかけた。
「夏子ちゃん、ご飯ですよ。」
優しく蕩けそうな口調だった。そのまま私の部屋をノックしに来ると思ってみたが、母はやって来なかった。私にまた一つ悲しみが襲い来る。私が母のお人形さんでいた意味は何だったのだろうと思った。こんな風にいつか捨てられるのではないかと不安で一杯だった日々を耐えた意味は何だったのだろう。酷い虚しさが私を取り巻く。私は学校へ行くことにした。この家にいることが苦しかった。制服を着て、学生鞄を掴み、私は急いで家を出た。母はそんな私に目をやることもなく、目の前で静かに朝食を摂る「夏子ちゃん」に夢中だった。

 

いつもよりずっと早い電車に乗り、私はぼうっと窓の外を見ていた。物凄いスピードで通り過ぎて行く街並み。どの家も幸せそうに見えた。突然の孤独に身体も頭も侵されながら、私は電車を降りた。本当はそのまま何処か遠くへ行ってしまおうかと思ったが、行きたいところなど私には特になかった。

 

学校へ着くと、楽しそうに笑う同級生たちの群れがあった。今の私には到底近寄れない群れ。私は真っ直ぐに教室へ向かい、友人へのおはようもままならないまま席についた。

 

授業は淡々と進み、今まで感じたことの無い早さで放課後がやってきた。私は家に帰りたくなかった。最寄りの駅に着いて、何本も電車を見送った。日は暮れて、寒い風が吹き始める。いつもなら連絡して来るはずの母からは何の連絡もなかった。意思をなくしたお人形さんの私は、こんな時でさえ何をすればいいのか分からない。ホームの椅子に座り込み、行く宛てのない自分を惨めだと思う。結局、今の私にはあの家に帰るしかないのだ。

 

私はやってきた電車に仕方なく乗り込んだ。

 

続く