一片

‪18の春、文筆家の男と出会った。‬
‪男は27で、私とは大きな年の差があったが、私たちは何度か顔を合わせるうちに他愛ない会話を楽しみ、やがて親しくなった。彼の家へ遊びに出かけては、黙々と何かを書き続けている彼の後ろで本を読んだり、たまに珈琲を淹れてやったりした。‬


‪暑い夏の日、いつも通り私が彼の後ろで本を読んでいると、彼は突然頭を抱えて唸り始めた。どうしたの、具合が悪いの?何を聞いても彼は首を横に振るだけで、私は困った。すると彼は小さな声で、‬
‪「書くことしか出来ないんだ。」‬
‪苦しそうにそう言ったが、私にはさっぱり分からなかった。書きたくないのならやめてしまえばいいのに、と。それでも男は絞り出すように、自分を削り出すように、何かを書こうとしていた。その姿は、書かなければ死んでしまうと思い込んでいるように見えた。

 

男の後ろ姿は、まるで戦場の兵士のような、戦う人間の後ろ姿だった。