月と太陽

夜が好きだと言う人は多い。その静寂さだとか、澄んだ空気だとか、夜特有の孤独に身を落とすのがいいだとか、理由は様々だ。けれど私はそのことを知っても、太陽の当たる昼間が一番好きだった。昼間は良い。特に晴れた日が一番いい。家の中に射し込む光も、外に出て浴びる光も柔らかで、道行く人々も穏やかに見える。

 

私は、晴れた日は必ず外に出た。心が落ち着き、何もかも全て受け入れられるような気持ちになれるからだ。途中、お気に入りのパン屋でアップルパイを買い、近所の公園のベンチでそれをゆっくりゆっくり食べながら、小さな子どもを連れた母親が、子どもと一緒に砂の城を作っているのを見る。優しい風景。テレビから流れてくる嫌なニュースが全て嘘に感じるほど、平和な空気。
私は、アップルパイを食べ終えアパートに戻る。部屋に入ると、微かに陽の光の匂いがした。私は窓辺に置いたお気に入りの椅子に腰掛け、読みかけの文庫本に手を伸ばす。

 

気がつくと、陽が落ち始めていた。夜が来るまであと少し。私は仕方なく本を閉じる。仕事へ行く支度をしなければならないからだ。私の仕事は決して大きな声で言えないようなものだった。されど自分で選んだ仕事だ。私はそれだけの理由で仕事を放棄できないまま、男に媚びを売り続けている。

 

一日中昼がいい、と私は思う。穏やかで柔らかな日々の中だけで生きていけたらどれだけいいだろう。そう願うけれど、夜は決まってやってくる。太陽が昇り、沈むと月が煌々と輝くように、陽が落ちれば夜がやってくる。こればかりは、私にはどうしようもないことだった。

 

明日も晴れますように。ささやかな望みを胸に、私は今日も夜の街に溶けてゆく。