息づく秘密

誰にも言えない秘密を抱えた私たちは、その魅力の虜になっていった。最早お互いのことではなく、この関係が秘密であることに溺れていった。

 

まるで真っ暗な冬の海の中に一歩ずつ進み行くような感覚。静かに波打つ海の中は砂浜よりも温かい。私たちは互いにその感覚を理解していたのかもしれなかった。そして、それが心地いいと思っていた。

 

私たちの秘密が三年も続いた頃。私は彼の隣で横になりながら、呟いた。
「随分、遠くまで来てしまったわね。」
彼は小さく頷いて、答える。
「ああ、もう深く沈んだよ。」
その一言は、私たちに訪れた「潮時」を想像させた。

 

どんなものでもそうなのだ。潮時というのは必ず訪れる。私たちはもうこれ以上、深くは沈めない。これ以上進めば、私たちは海に溺れて二度と帰れない。それは私たちが虜になった秘密が、秘密でなくなることと同じだった。

 

私たちは秘密を秘密のまま守るため、寒い砂浜に戻ることを決めた。別れたあと、彼は私を振り返ることなく去っていった。私もまた、彼の背中が見えなくなる前にその場を去った。

 

そうして私たちの関係は幕を閉じた。

秘密は秘密のまま、私たちの中でいつまでも、密やかに息づいていく。