そこのあの子の夏休み
窓の外はジリジリという音が聞こえてくるような快晴だった。でも私は部屋の中で膝を抱えている。外には出たくなかった。学校なんて行きたくなかった。あそこは煩い。あそこは怖い。あそこは危険だ。
いつからこんな風に思うようになったのか、もう思い出せない。随分と長い間、部屋の隅で膝を抱えている気がする。けれど私は、気づいている。全く形の分からない希望にすがろうとしている自分のことに。けれどそんな自分は恥ずかしくて、私はいつまでも頑なに膝を抱いていた。
いつか誰かがなんて、夢みたいな話だと思う。いや、夢そのものだ。誰かが救ってくれる未来なんてない。期待しちゃいけない。希望を抱いてもいけない。私みたいなやつなんかに、神様とやらは手を差し伸べたりしない。分かっているのに、私は時々祈ってしまう。私も笑いたい。こころの底から笑いたい。
どこで立ち止まったのだろう。どうして動けなくなってしまったんだろう。毎日毎日考える。答えはすぐに見つかるのに、私は見えないふりをする。逃げるのは楽だった。でも逃げている最中は地獄だ。それでも、あの恐ろしい笑い声の中に独りきりでいるよりはマシか。そう思う私は、おかしくなってしまったのかもしれない。
ある日の夜、窓を開けてみたらぬるい夜風に髪が靡いた。夏の始まりに顔をしかめながら、私は冷たい水を飲む。液体が喉を通って行くのがわかった。まだ生きている。そう思った。