逃げ癖

本当に強い人というのは、頼るべき時に誰かを頼れる人間だと、どこかで教わったことがある。私はその時、ならば私は非常に弱い人間なのだろうと思った。強い人間になりたかったが、しかし私には誰かを頼るということがどうにも難しく感じた。だって頼られる側はきっと、私の中のどうにもならない叫びに困ってしまうだろうから。誰かを困らせるのは、とても怖くて、私には、耐えられなかった。それは、頼れない苦しさを大きく、大きく上回っていた。

 

そんな私に、つらいときは、泣いていいよ。と、貴方は言うけれど、そんなことを言われたら余計に泣けなくなってしまう。優しく見えて、酷な台詞。貴方の口から出る言葉たちはいつもそうだ。私は優しすぎる貴方に甘えられずどんどん弱くなっていく。貴方のせいとは言わない。だって私が貴方の前で泣けないのは、私が泣かないように気をつけているせいだから。

 

本当は分かっている。結局のところ、私は自分の中にある醜い部分を見られることで、嫌われたくないのだ。こんな風に思うようになったのがいつのことかはもう思い出せない。気付けば嫌われることをひどく怖がるようになっていた。
貴方はどんな私を見ても、私を捨てずにそばで笑ってくれるのだろうか。貴方が私に優しくするたび私はそんなことを思った。でも聞くことはしなかった。貴方はきっと、大丈夫だよと言うだろうから。でもそんな言葉、あてにならないのだ。

 

優しすぎる貴方と、それに応えられない私は、いつまでも満たし合えないままでいた。私は段々とそのことに耐えられなくなっていった。私はいっそ捨てられてしまってもいいような気がして、彼を試してみたくなった。

 

けれど、そんな試みは上手くいかなかった。私は、泣けなくなっていた。ちょっとした弱音すら、出てこなかった。いつの間にか私は、笑っているだけの人形のようになってしまっていた。

 

つらいときは、泣いていいよ。
貴方の言葉がループする。
今こそ泣いてしまいたかった。
それでも、私の目から涙が出ることはなかった。