古い記憶は美化されて、春が来る

みっともないセックスだったかも知れない。

お互い胸の中で凍っていた何かを、溶かし合おうとするようなセックス。本能に任せて貪りあった。若くて痛々しくて目も当てられない。そんなセックスを、私たちはした。
本当の別れ際のことだった。全くの赤の他人になる、直前。あの日のことを私はとてもよく覚えている。忘れられない記憶。感覚。感情。あれは私たちの日々の凝縮みたいなひと時だった。

あの日から何年経っただろう。今の私には、あの日のセックスがとても大切で神聖な行為だったと思えてならない。あんなに何度も体を重ねてきたのに、あの日の数十分が全てだったとさえ思える。いや、本当に全てだったのかも知れない。あのひと時がなければ、きっと今の私はない。そんな確信さえ持てた。
私たちはあの日確かに、長い長い冬のトンネルから抜け出したのだ。